やさしく見直すCAE技術 第2回「応力」

やさしく見直すCAE技術 第2回「応力」

やさしく見直すCAE技術 第2回「応力」

身近にあっても普段あまり気づかない ものに目を向け、そのものの挙動、機能、現象、原理などをわかりやすく解説するシリーズです。
第2回は、応力について解き明かします。


第2回 テーマ「応力」

応力は、物体が外部から力を受けた時に、物体の内部に生じる単位面積当たりの力と定義されます。『応力』を表す英語はストレス(Stress)です。これには工学的な意味のほかに、精神的な圧迫、抑圧、緊張という意味もあります。我々人間は、社会の中で生きており、社会すなわち外部から様々な要因によるストレスを受け、このことが種々の病に大きく関与していると言われています。
応力の定義によると、外力が小さくても物体の形状によっては大きな応力が発生します。人が足の裏全体で立っている時とつま先立ちの時では体重を支える面積が異なり、足の骨に生じる応力は全く違います。この性質は構造物の安全評価をするうえで非常に重要です。応力には大きく分けて、引張や圧縮のように面に対して垂直に作用する垂直応力と、面に対して平行に作用するせん断応力の2つがあります。これらの応力は構造物を設計するにあたり重要な設計要素となります。

耐震設計は応力との戦い

自然災害の中でも構造物に甚大な被害を及ぼすのが地震です。構造物の耐震設計は、せん断応力に対してどの程度の耐性があるかが重要になります。これは地震に対する構造物の主要な挙動が横揺れなのに対して、構造物を支える柱や壁は地面に垂直に建てられているためです。図2は構造物に横波の地震波が入射する様子を表しています。兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)では、高速道路の支柱や地下鉄トンネルの支柱でせん断破壊が数多く発生して倒壊に至り、多くの被害を出しました。せん断応力に対する耐性を上げるには、建物の柱・壁を増やしたり、コンクリート内の鉄筋の数を増やしたり、鉄筋の間隔を調整する方法がありますが、これらを増やしすぎても建設コストがかさんで現実的な設計にはなりません。

では、コンクリート構造物の鉄筋の本数はどのように決定されるのでしょうか?これには許容応力(構造物の材料に対して、ここまでは安全という限界の応力を、それぞれの材料や部材の安全率で割ったもの)が用いられます。この値が地震応答解析で計算された最大の応力値より大きければ強度的に十分な設計となり、小さければ設計のやり直しとなります。これは許容応力度設計法という設計方法で、自重などの長期荷重に耐えられることはもちろん、数十年に一度の大きな地震が発生しても建物が倒壊せず、その後も継続して使用できることを目的としています。このように、応力を用いた定量的な評価によって信頼できる設計がなされています。

構造デザインに思いを馳せる

地震大国である日本は、数多くの地震によって沢山の被害を受けてきました。そのたびに、研究や検証が行われ、応力を利用した耐震設計基準を見直すことによって次の災害に備えてきました。身近な製品のデザインだけでなく、構造デザインが持つ機能や強度に注目してみると、構造物としての設計合理性など興味深い洞察が得られると思います。



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