CAE Q&A
  ~FEモデリングにCADデータを使う~

CAE Q&A<br>  ~FEモデリングにCADデータを使う~

CAE Q&A  ~FEモデリングにCADデータを使う~

 CAEの実務に役立つ技術情報をQA形式で解説するコーナー



Question:

有限要素解析のモデリングにCADデータを利用したいのですが、どのような方法が可能ですか?

Answer:

 有限要素法の解析作業プロセスは、 ① モデル形状の作成 → ②メッシュ作成 → ③条件設定 → ④解析実行 → ⑤結果表示 の順に行われます。

 一般に、解析モデル形状はCADデータを利用して作成されます。モデル形状がシンプルなときは解析ソフトのプリプロセッサで作ることもできますが、解析目的が工業製品の性能検証の場合、解析には実製品に近いモデルが求められます。通常は設計部門から提供された製品のCAD形状データを使います。

 CADには、建築物の製図や景観デザインに用いられる建築CAD、電子回路設計用の電気CAD、工業製品の設計開発で使われる3次元CADなどがありますが、ここでは製品形状の3次元CADデータを解析で利用するケースを説明します。


解析に用いるCADデータは3種類

 CAE解析で扱うCADデータは大きく分けて3種類があります。1つ目はCADネイティブファイル、2つ目が業界規格ファイル、3つ目がCADカーネルファイルです。

 CADネイティブファイルは、それぞれのCADソフトに固有の拡張子で管理されるファイルで、CADソフトで形状をいちから作成し、それを保存したときに生成されるファイルです。基本的に、作成したCADソフトでないと開くことができず、他のソフトで中身を見ることはできませんが、プリプロセッサがCADネイティブファイルのダイレクトリーダーを持っている場合はこれを解析モデルの作成に利用することができます。


IGESとSTEPはパブリックな規格

 2つ目は、IGESとSTEPに代表される、業界規格に基づくCAD共通ファイルです。公的機関が定めた規格で、これを認識する機能をソフトに付加すればCADデータが読めるようになります。多くのCAEプリプロセッサはIGESやSTEPに準拠したファイルが読めるようになっており、これらを用いてCADデータを解析に利用することができます。

 IGESは、1989年にANSI(米国国家規格協会)が策定したCAD互換ファイル形式 ”Initial Graphics Exchange Specification” の略称です。航空宇宙業界や自動車業界などで普及していて、日本でも広く使われています。基本的にすべてのCADソフトでIGESファイルの読み書きができますが、IGES規格にはリビジョンがあり、古いデータの互換性には注意が必要です。

 STEPは ”Standard for the Exchange of Product model data” の略で、1994年にISO(国際標準化機構)が定めた『コンピュータが解読可能な工業製品データの表現と交換』に関する規格です。CAD間の互換性に限らず、広範な工業製品のデータ互換を目指しており、正式名は ”ISO 10303 Industrial automation systems and integration – Product data representation and exchange” です。


ParasolidとACISはプライベートな規格

 3次元CADソフトは、モデリング・カーネルと呼ばれるジオメトリ・エンジンを搭載しています。カーネルは3D形状を表す際の関数演算セットをソフトウェアモジュールの形でライセンス提供されるもので、カーネル独自に定義された図形操作アルゴリズムで3D描画が行われます。世界的に広く普及しているカーネルはParasolidとACISです。

 Parasolidは、CADベンダーのUGS 社が自社製ハイエンドCADソフト『Unigraphics』に搭載していたモデリング・カーネルを他社にライセンス提供したものです。Parasolidの登場によってミッドレンジCAD市場が生まれたと言われており、多くのCADソフトがParasolidカーネルを採用しています。また、CADデータを読み込む必要のあるCAMソフトやCAEソフトの多くにParasolidリーダーが採用されています。

 ACISは米スペイシャル社が提供するCADカーネルです。現在、スペイシャル社は仏ダッソーシステムズの傘下企業です。ダッソーはCATIAの開発元ですが、CATIAは独自のカーネルを開発していてACISは用いていません。ちなみに、CATIAは繊細な曲面の表現に秀でたサーフェス系CADで、自動車の官能的なボディサーフェスや、表面形状が運用効率に直結する航空機設計などの業界で世界標準になっています。

 筆者の経験上、CAEモデリングに使用するうえでParasolidはデータ変換の成功率が最も高く、次がSTEP、ACISと続きます。IGESは結構な頻度で形状エラーが発生します。選択が可能なら Parasolid、STEP、ACIS、IGES の順にトライするのがいいでしょう。

 Parasolidの成功率が高いのは納得できます。ファイル出力する側も読み込む側も同じParasolid関数を使いますから読み取りエラーはまず発生しません。STEP規格はCAD-CAE間のデータ互換も対象に含んでおり、実用レベルで使えます。IGESはCADソフト間のデータ変換に関する規格で、CAD-CAE間の変換は想定されていません。




ファイル様式以外の注意点

 CADファイルが無事に読み込めて、モデル形状が再現されても、そのままではCAE解析に使えない場合があります。

 よくあるのが、CADソフトとプリプロセッサの間で、トレランス(隙間認識距離)が異なっているケースです。CADで複数部品の面や辺を接合して構成したアセンブリモデルがプリプロセッサでは部品間に隙間があると認識されたり、CADで複数のサーフェスで囲んだ形状をソリッド変換したものがプリプロセッサでは複数のサーフェスと認識される場合、CADソフトとプリプロセッサでトレランスの整合を取る必要があります。

 CADオペレータが解析プロセスを意識せずに形状を作成したために起きる問題もあります。複数の線が重なり合って一本の長い線が形成されていても、画面では一本の線に見えますがデータ上は繋がっていない線の集まりでしかありません。これらはファイルを開けてみないとわかりません。

 このような不具合の多くはCAE担当者がプリプロセッサで修正します。CAEの現場ではこういう泥臭い作業が実務の一定割合を占めていて、担当者の苦労に頭が下がります。