Mat. Curve Modeller:遅れて来たもう一つの材料データ作成ツール – 7

Mat. Curve Modeller:遅れて来たもう一つの材料データ作成ツール – 7

Mat. Curve Modeller:
遅れて来たもう一つの材料データ作成ツール – 7

最適化ツールの機能の向上と相まって、非線形材料データの作成方法、検証方法は多くの研究者、企業からの提案があり、商品化もされています。弊社でも、独自の視点を形にした材料データ作成ソフトMat. Curve Modellerを昨年11月にリリースしました。以下に、開発者によるコラムをお届けします。

Mat. Curve Modeller のMises⇔SAMP変換機能に焦点をあててお送りしています。前回は塑性変形を伴うときの真応力の式を導出しました。今回は変換手法の解説の最終回です。少し重たい内容かもしれませんが、ご容赦ください。





前回のおさらい

 前回のおさらいとして、式1と式2に塑性変形を伴う場合の真応力の式を示します。なお、ここに示す真応力の式は除荷、載荷の繰り返しの変形挙動を伴わない、単調に載荷した場合の真応力の式であることにご注意ください。式1は塑性変形における体積変化(体積塑性ひずみが非ゼロ)を考慮した真応力の式です。本記事でたびたび取り上げているSAMP構成則における真応力の式ですので、SAMP の印を含めて表示しています。式2は塑性変形における体積変化がゼロの場合の真応力の式です。Mises構成則(LS-DYNAなら、MAT_024など)における真応力の式ですので、Misesの印を含めて表示しています。

 余談ですが、式1,2の右辺の赤字部分は共通しています。材料試験結果から直接評価できる物理量で構成されていますので、構成則とは関係なく評価可能です。右辺黒字部分が弾塑性の計算に依存する部分です。第5回記事の図1に示したSSカーブの差異はこの黒字部分の差と言えます。



Mises⇔SAMP変換式

 変換式の導出は簡単です。式1と式2の比をとるだけです。つまり、式3が変換式です。



SAMPデータからMisesデータに変換

 SAMPデータ(真応力 、塑性ポアソン比 νp)が既知の場合、式3において、未知数はMises構成則における真応力 のみであり、SAMPデータからMisesデータに変換可能です。

 SAMP構成則は複雑で、計算コストが高い構成則です。単純な変形計算(引張など)の確認など、必ずしもSAMP構成則を使う必要がない場合は、式3によってMises構成則用に変換されたデータを用いれば計算コストを抑えることができます。

MisesデータからSAMPデータに変換のための準備

 Mises構成則における真応力 が既知の場合、式3において、未知数はSAMP構成則における真応力 、塑性ポアソン比 νp の2つです。SAMPデータを得るには、もう一つ式が必要になりますね。

 もう一つの式を導出してみましょう。まずは、図1に直方体の1軸引張変形を示します。弾塑性体かつ非圧縮性を塑性ポアソン比でモデル化した場合の引張ひずみとその垂直方向のひずみを図1のように表現できます。これら2つのひずみの比(式4)を考えてみましょう。大変形時のひずみ比なので、「見かけのポアソン比(Apparent Poisson’s Ratio)」と呼ぶことにします。この見かけのポアソン比はデジタル画像相関法によって、計測できます。式4の右辺には、式3と同様の2つの未知数が入っています。したがって、式3と式4から2つの未知数、真応力 、塑性ポアソン比 νp を決定できることになります。





MisesデータからSAMPデータに変換

 式3と式4を使って、MisesデータからSAMPデータに変換する手続きを図2に示します。最初に、塑性ポアソン比 νp を推定します。次に、式3を使って、SAMP構成則における真応力 を求めます。さらに、式4を使って、見かけのポアソン比 νt を計算します。「計算した見かけのポアソン比」と「DIC測定などから測定した見かけのポアソン比」を比較し、 「計算した見かけのポアソン比」が試験結果を再現していれば変換終了と考えます。再現性が悪ければ、塑性ポアソン比の推定内容を修正し、変換作業を再度実施します。



 図3、図4に例を示します。図3は、塑性ポアソン比を0.5と推定した時、見かけのポアソン比が試験結果を再現するか、比較した結果です。残念ながら、再現性はみられません。図4では、塑性ポアソン比が変化し、0.35付近まで低減することを考慮した場合の比較結果です。見かけのポアソン比は試験結果を再現することが確認できます。この例では、図4に示す塑性ポアソン比カーブと式3によって得られる が変換機能によって得られたSAMPデータです。






 従来から、引張試験結果に基づき、樹脂材料データはMises構成則用データとして作成されることが多かったようです。そのような資産をここで示した変換手法を用いることで、SAMP構成則用データ(引張特性)に生まれ変わります。変換したデータに加え、圧縮特性、せん断特性を追加することで、樹脂材料の変形挙動をよく再現できるようになります。

さいごに

 4回にわけてMises⇔SAMP変換機能について解説しましたがいかがでしたでしょうか。当社オリジナルの理論のため、解説のほとんどが馴染みのない理論だったかと思います。ここで展開した数学的な考察によって、効率よく材料データを同定することが可能です。




関連ページ/参考文献


竹越、丹羽、” MAT_SAMP-1樹脂材料データ作成技術の紹介”、LS-DYNA & JSTAMP Forum 2013 JSOL.

竹越、”塑性体積膨張を示す樹脂の材料データ作成手法の検討”、第57回日本学術会議材料工学連合講演会  日本材料学会 .

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