樹脂成形とレオロジー 第8回「流体の分類」

樹脂成形とレオロジー 第8回「流体の分類」

樹脂成形とレオロジー 第8回「流体の分類」





粘弾性体としての取り扱いの実際

 樹脂材料は粘弾性体であり、これまで述べてきたようなモデルを用いて解析することが理想です。固化状態に限定すれば数値解析の困難さは幾分改善され、実用的な計算も行われています。一方、射出成形のような高速流れを含む現象に関しては、粘弾性の考慮は膨大な計算時間と数値解の不安定さを招き、現実にはほとんど用いられていません*。現行の樹脂成形シュミレーションは新製品開発時の問題点の机上検討を迅速に行うことが重要であり、樹脂の性質を可能な範囲で簡略化(流動時は粘性体、固化状態では弾性体)して実際に近い状況を予測できればいいという観点に立っています。ここでは、対象を樹脂流動とし、粘性体としての取り扱い法についてしばらく連載したいと思います。

   * 井上良徳:豊田中央研究所R&Dレビュー,29,29(1994.3)


樹脂成形での流動について

 樹脂成形では樹脂を液状にして金型流路を通過させるプロセスがあります。このような流れは流路壁から中央に沿って速度分布ができるせん断流れになります。押出成形やブロー成形では速度分布のない伸長流れという現象も起きますが、全般的にはせん断流れを取り扱うことが圧倒的に多く、ここではせん断流れを前提にして粘性流体の特性を分類していきます。



せん断速度を瞬時に変えたときの特性比較と分類

 いま回転粘度計などで粘度を測定中に急に回転速度を上げたとします。このとき速度勾配が大きくなりせん断速度が急に増加します。図2のように時間t1を境にせん断速度がステップ状に大きくなった場合を考えます。このときの粘度変化は5種類に大別できます。①はせん断速度の影響を受けないタイプ、②は粘度がすぐに低下するタイプ、③は粘度がすぐに増加するタイプで、このように粘度変化に時間依存性がない特性を持つものを純粘性流体と総称します。溶融樹脂は通常②の特性を示します。④は時間の経過とともに徐々に粘度が低下、⑤はその逆の特性を示す時間依存タイプで、それぞれチキソトロピー、レオペクシーと呼ばれています。プラスチック成形のCAEでは純粘性流体としての取り扱いを行います。



純粘性流体の特性比較-1

 純粘性流体のせん断速度とせん断応力の関係を図3 に示します。ニュートン流体は原点から出発したリニアな関係になります。擬塑性流体は原点から出発してせん断速度の増加とともに勾配がゆるやかになります。ダイラタント流体も原点から出発しますが、せん断速度の増加とともに勾配が大きくなります。ビンガム塑性流体と拡張オストワルド流体は降伏値を持っており、この降伏値より小さい応力では固体として振る舞い流動しません。降伏値以上になると流体としての挙動を示し、前者はニュートン流体としての、後者は擬塑性流体としての特性の形になります。



 純粘性流体の種類と該当物質を表1に示します。低分子の水、油、空気などは物理学者のニュートンが見出した通りの挙動を示します。一方、高分子材料である溶融プラスチックは、せん断速度が大きくなるにつれて分子鎖の絡み合いがほどけて流動抵抗が減少するので擬塑性流体の挙動をするといわれています。比較的大きな粒子を含む一部の液体は、せん断応力により抵抗値が増大する形に粒子配列が変わるためダイラタント流体の特性を示します。異種材料の微粒子を含む塗料、練り歯磨き、バター、石鹸などは降伏値を持ち、ビンガム塑性流体や拡張オストワルド流体の特性を示すものが多いようです。



純粘性流体の特性比較-2

 純粘性流体のせん断速度と粘度の関係を図4に示します。粘度は図3の各グラフの勾配になります。ニュートン流体、ビンガム塑性流体は粘度一定になります。擬塑性流体と拡張オストワルド流体はせん断速度の増加とともに粘度が低下します。ダイラタント流体はせん断速度の増加とともに粘度も増加していきます。粘度がせん断速度により変わる特性は材料によりすべて異なっており、この関係をできるだけうまく表すための各種モデル式が提案されています。



ダイラタンシーについて

 ダイラタンシー(dilatancy)とは1885年にイギリスの物理学者・技術者のオズボーンレイノルズ(O.Reynolds)によって発見された粒状体の性質のことで、せん断時の体積変化を示します。語源のダイラタント(dilatant)とは「膨張性の」という意味であり、体積膨張が起きる場合を正のダイラタンシーとよびます。図5にこのメカニズムを示します。外部応力により粒子の配列が密から疎になり、広くなった隙間に溶媒が入り込み、潤滑作用のない固体部分が接触して変形抵抗が大きくなります。でんぷんなどの粒子の入った液体の上で足を速く動かすと体が沈んでいかないというでんじろう先生の実験はこれに該当します。一方、逆方向の体積変化が起きる場合は負のダイラタンシーとよばれます。粒子配列が疎から密になり、狭くなった隙間から溶媒が粒子の外部に抜けだしてきます。地震後の地面の液状化はこれにより発生します。





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