Mat. Curve Modeller:遅れて来たもう一つの材料データ作成ツール – 9

Mat. Curve Modeller:遅れて来たもう一つの材料データ作成ツール – 9

Mat. Curve Modeller:
遅れて来たもう一つの材料データ作成ツール – 9

 最適化ツールの機能の向上と相まって、非線形材料データの作成方法、検証方法は多くの研究者、企業からの提案があり、商品化もされています。弊社でも、独自の視点を形にした材料データ作成ソフトMat. Curve Modellerを2021年11月にリリースしました。以下に、開発者によるコラムをお届けします。
  前回は等方性材料の等2軸変形における真応力を導出しました。今回は弾塑性変形における真応力に拡張し、Mises⇔SAMP変換機能への適用を議論します。考え方はコラム第6、7回の手続きと同じです。





前回のおさらい

 前回のおさらいとして、図1に等方性弾性体材料の真応力導出のために用いた立方体の変形を示します。1辺が \(L_{0}\) の立方体をX軸、Y軸それぞれに沿って引張り、立方体を等2軸引張状態としています。真ひずみは添え字 t をつけて表示しています。等方性材料なので、X方向、Y方向の垂直応力は等しく、そのため、代表してX方向の真応力を考えます。

 真応力は立方体の面に垂直方向に作用する荷重 \(P_{x}\) と作用面の面積 \(L_{y}\) \(L_{z}\) の比ですので、X方向の真応力は式(1)のように表せます。平面応力状態における組み合わせ応力を考え、さらに、式(2)に示す2軸ポアソン比 \(\mu{_e}\) を導入することで、式(1)は式(3)のように整理できます。






弾塑性変形時の真応力

 式3を拡張することで、等方性弾塑性体の等2軸変形における真応力の式を導出してみましょう。ここでは、真ひずみを弾性ひずみと塑性ひずみの和で表現する方法で考えます。弾塑性構成則は履歴を考慮した構成則であるため、本来は増分形式で記述する必要があることに注意してください。ここでは、立方体を単調に引張変形させることを考えるため、増分量を積分した結果で示しています。

 表1に対応関係を示します。真ひずみは添え字 t、弾性ひずみは添え字 e、塑性ひずみは添え字に p をつけて表示しています。Z方向のひずみでは、弾性ひずみの横に \(\mu{_e}\) 、塑性ひずみの横に \(\mu{_p}\) があります。後者は、塑性ひずみ増分量に対する2軸塑性ポアソン比です。式4で定義されます。式4に見られる \(\nu{_p}\) は第6回で紹介した塑性ポアソン比です。金属材料のように塑性変形においては体積一定となる場合、塑性ポアソン比は0.5となるので、2軸塑性ポアソン比は2となります。

 表1の関係式を式3に代入し、整理すると式5のように表せます。しかし、式5では見通しが良くありません。さらに式変形すると、式6のように整理されます。式3に対して、塑性変形に伴う補正項(赤字でハイライトした部分)が考慮されている、と解釈できます。ここで、2軸変形の塑性ひずみは式7のように表せますので、式8のようにまとめられます。両辺に真応力があるため、これは第6回で紹介した self-consistent equation です。反復計算によって、塑性変形時の真応力を評価することができます。













Mises ⇔ SAMP変換式

 本コラムの第7回で議論した手続きと同様の方法によって、Mises ⇔ SAMP 変換式を導くことができます。式9、式10にSAMP、Mises構成則における等2軸変形の真応力を示します。式中の赤字箇所は材料試験結果から直接評価できる物理量で構成されており、構成則とは関係なく評価可能です。右辺黒字部分が弾塑性の計算に依存する部分です。式9、式10の比をとることで、赤字部分が消去され、式11の変換式が得られます。





さいごに

 2軸引張試験を実施できる試験機関はほとんど無いと思われますので、式11の利用価値は一見すると無さそうです。しかし、面衝撃試験のような板材中央を棒で押す試験(例https://www.terrabyte.co.jp/lsdyna/exe-dyna/dyna-sample34.htm)の場合、2軸応力状態が支配的となるため、材料試験シミュレーションから2軸の応力-ひずみ関係を推定できます。著者の経験では、LS-DYNAのSAMP-1の計算負荷はMAT_024の3~4倍ですので、最初に計算負荷の軽いMises構成則で2軸の応力-ひずみ関係を推定し、推定後、式11を利用してSAMP用の2軸の応力-ひずみ関係を取得する、という使い方が考えられます。ぜひ、Mat. Curve Modellerの変換機能をご活用いただきたいと思います。




関連ページ/参考文献


竹越、丹羽、” MAT_SAMP-1樹脂材料データ作成技術の紹介”、LS-DYNA & JSTAMP Forum 2013 JSOL.

竹越、”塑性体積膨張を示す樹脂の材料データ作成手法の検討”、第57回日本学術会議材料工学連合講演会  日本材料学会.

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