やさしく見直すCAE技術  第1回「力のつり合い」

やさしく見直すCAE技術  第1回「力のつり合い」

やさしく見直すCAE技術  第1回「力のつり合い」

 身近にあっても普段あまり気づかない ものに目を向け、そのものの挙動、機能、現象、原理などをわかりやすく解説するシリーズです。構造、熱、流体など、CAE解析で扱う分野を対象に記してゆきたいと思います。





第1回 テーマ「力のつり合い」

 古代より、人は住居などの生活に関わるさまざまな局面で創意工夫と試行錯誤を繰り返し、力に関する法則を経験的に獲得してきました。
こういった知識を物理的に体系化したものが「力学」です。
「力」は力学の分野では物体に変化を与える作用を意味します。
歴史的建造物の中には、スペインのセゴビアにあるローマ水道橋のように、現在でも力学的に高く評価されているものが数多く見られます。
古代の建築者たちが構造物に関する力学(構造力学)を上手に利用していた事を窺い知ることができます。
 さて、ここでは、力が作用しているのに静止している問題、物体の位置関係が相対的に変化しない問題(静力学)を解くうえで基本となる「力のつり合い」を解説します。

身近な問題にみる「力のつり合い」

 運動会でよく行われる綱引きを想像してみましょう。
 図1は綱引きをしている様子です。図中の矢印のように、力がはたらく方向と大きさを示す線を「作用線」といいます。
ここでは、片方のチームが左へ引っ張る力と、もう片方のチームが右へ引っ張る力が等しい場合、綱はどちらにも動かず静止状態を保ちます。
このように、2つの力が正反対の方向にはたらき、かつ、その大きさが等しいとき、2つの力は「つり合っている」といいます。


 また、物体が動いているのに力がつり合っている状態もあります。
たとえば、スカイダイビングで空中を一定速度で降下している場面などがそうです。
飛び降りる高さが高ければ高いほど、重力加速度の影響で速度は上がる一方のように考えがちですが、ある速度に達すると人にかかる重力と空気抵抗力がつり合うため、それ以上速度が上がることはありません。この速度のことを、力学用語で「終端速度」といいます。

 ちなみに、スカイダイビングの「終端速度」はおよそ時速200キロだそうです。


 私たちが扱うCAEソフトウェアでは、このような一般によく知られた物理法則を組み合わせて、物理現象を数学的に解いてゆきます。
 今日ではソフトウェアの利便性が向上し、手軽に解析が実行できるようになりました。
ですが、解析ソフトの操作がいかに簡単でも、解析結果の評価に関しては、物理法則や数学的理論に従って現象を捉える力が要求されます。こう書くと難しいようですが、基本的な考え方は、「力のつり合い」です。

みた目に美しい「力のつり合い」

 「力のつり合い」は、駅のホームの天井や橋梁などに見られるトラス構造によって、力の分散とつり合いをとるための工夫を確認することができます。

 なお、実際の建造物には見た目の美しさ、美的デザインの感覚が重要視されます。
美しいプロポーションの中に見事に力学条件が埋め込まれ、芸術の域に昇華された建造品は、私たちの身近に結構あるものです。
誰でも知っている東京タワーや、日本各所で文化財に指定されている眼鏡橋などがその例です。

 皆さんも、身近なところで美しい「力のつり合い」を探してみてください。新しい発見に刺激を受け、インスピレーションに酔うのもいいものです。





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