樹脂成形とレオロジー 第14回
「 熱硬化性樹脂の反応の進行」

樹脂成形とレオロジー 第14回<br>「 熱硬化性樹脂の反応の進行」

樹脂成形とレオロジー 第14回「 熱硬化性樹脂の反応の進行」

 熱硬化性樹脂は主剤、硬化剤および各種添加剤からなる複合材料です。これらを配合した時点から化学反応によって分子構造が二次元から三次元に変化し、高分子化が進んで、最終的に不溶性の生成物となります。粘度、弾性率、比容積などの物性値の変化は反応の進み方と密接に関連しています。ここでは反応状態の調べ方と定義方法について述べます。





反応発熱の測定

 物質に状態変化が起きるときに発熱、あるいは吸熱を伴うことが知られています。たとえば、固体の結晶試料が温められて融解して液体になるとき、融解熱として熱エネルギーが吸収されます。一方で液体を冷却しながら結晶化させる場合は、凝固熱として熱エネルギーが放出されます。このような状態変化が起きるときの温度とエネルギー量を測定する熱分析装置が示差走査熱量測定装置DSC(Differential Scanning Calorimetry)です1)。

 熱硬化性樹脂をDSCで室温から温度上昇させていくと図1のような発熱特性を示します。左側の縦軸は発生熱量Qの時間変化率を表す熱流速で、分子の結合の頻度に該当します。最初は温度が低く分子の結合がゆるやかに進むので、余分な運動エネルギーが徐々に熱に変わっていく様子を示しています。温度上昇に伴って分子の結合頻度が高くなるので、途中までは熱流束が増大しますが、結合が進み探す相手が少なくなると放出する運動エネルギーは減少するので熱流束は逆に小さくなります。未反応のときの熱流束は0で、反応の進行とともに所定の曲線を描き、反応の終了で再び熱流束は0となります。



 熱流束を時間積分してゆくと、そのときまでの発熱量Qが計算でき、図2のような曲線が得られます。各時刻における勾配がそのときの熱流束になります。途中で勾配が最大となり、その後ゆるやかになって、ある値に向けて飽和します。この値は総発熱量で、Q0と定義します。 Q0は反応により結合した全分子数に比例し、Qはある時刻までに結合した分子数に比例すると考えると、 QのQ0に対する割合が反応の進行を表す指標になりそうです。



反応率、反応速度の定義

 ここで反応率を次のように定義します。



 α:反応率、Q:途中までの発熱量、Q0:反応終了までの 総発熱量です。



 図3に反応率の変化を示します。反応が起きていないときα=0, 反応が終了したときα=1となります。すなわち、αは0≦α≦1の範囲にある無次元数となっています。形は図2の発熱量と同じになります。一方、反応率の時間変化率が反応速度となり、次式で示されます。



 dα/dt :反応速度です。

 図4に反応速度の変化を示します。時間の逆数の次元を持ち、形は図1の発熱速度と同じです。



反応速度式について

 図2、図3のような変化は、環境収容力に収束していく人口増加特性を表すロジスティック方程式 2) の解と類似しています。この基本は人口変化率はそのときの人口の関数になるということです。これを反応速度に置き換えると、反応速度はそのときの反応率の関数になる、ということになります。また反応速度は温度によっても大きく変わりますので、次の関数形になります。



 T:温度です。

 次回からはこの各種モデル式について説明します。

 参考資料
1) https://ja.wikipedia.org/wiki/示差走査熱量測定
2) https://ja.wikipedia.org/wiki/ロジスティック方程式



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