液化天然ガス(LNG)タンクのFluid-Structure-Soil-Interaction (FSSI) を考慮した地震応答解析

液化天然ガス(LNG)タンクのFluid-Structure-Soil-Interaction (FSSI) を考慮した地震応答解析

概要

液化天然ガス(LNG)は日本の一次エネルギー供給の約23%を占める重要なエネルギー源です[1]。そのため、LNGを貯蔵するタンクは地震動をはじめとした自然災害に対して、高い耐性を持つ必要があります。LNGタンクの耐震性は、構造物だけでなく地震動が発生した時の流体の挙動を考慮して評価する必要があります。従来は最大応答時の流体の地震荷重を推定して質量要素を構造モデルに付加する方法などが用いられましたが、近年では流体の動的な応答をより正確に考慮する方法が提案されています[2, 3]。
本事例ではACS SASSIとANSYSを組み合わせて地盤と構造物の相互作用および流体と構造物の相互作用を同時に考慮するFSSI(Fluid-Structure-Soil Interaction)の解析を実施した事例を紹介します。

解析概要

目的

LNGタンクのモデルを作成し、地震動に対するFSSI解析を行い、応答スペクトルの確認をします。

使用ソフトウェア

表1. 使用ソフトウェア

タスク ソフトウェア
地盤インピーダンス計算とポスト処理 ACS SASSI Version 4.3.5
複素周波数領域でのFSSI解析 ANSYS Version 19.2
可視化処理 Altair HyperView 2022.2

解析モデル

材質:鉄筋コンクリート
質量:154,305 ton (LNG+構造部材)
総節点数:34,865
掘削地盤の節点数:15,288
タンクの寸法:直径90m✕高さ50m

図1~図2に解析モデルを示し、2に地盤の材料物性を示します。

 

 

表2. 地盤の材料物性
密度 1.2 ton/m3
ヤング率 6.80×105 kPa
せん断弾性係数 2.43×105 kPa
ポアソン比 0.4
せん断波速度 450 m/s

 

 

図1. LNGタンクと地盤の位置関係
図2. LNGタンクモデルの寸法(側面図)

 

 

入力地震動

入力波はEL CENTRO地震の観測波形を使用します[4]。この地震は、1940年5月18日に米国とメキシコの国境に近い南カリフォルニア南東部のインペリアルバレーで発生しました。モーメントマグニチュードは6.9、最大震度はメルカリ震度階級でX(エクストリーム)という大地震で、断層に隣接して設置された強震計で記録された最初の大地震として有名です。

この事例では非損傷のLNGタンクを仮定するため、EL CENTROの加速度の大きさを1/2にスケールしています。図3に入力地震動を示します。また、図4にACS SASSIで計算したEL CENTRO地震の応答スペクトルを示します。

 

図3. 入力地震動

図4. 入力地震動の応答スペクトル

 

FSSI解析の結果

ACS SASSIでは詳細モデルの節点における加速度、変位の出力が可能です。加速度は応答スペクトルとしても出力することが可能であり、機器応答の評価に使用することができます。FSSI解析の結果を図5~図9に示します。加速度と変位のアニメーションを図5と図6に、節点Aの加速度と変位時刻歴を図7と図8に、応答スペクトルを図9に示します。節点Aは地上32mの壁で、配管や機器が取り付けられていると想定される位置です。

図5と図6のアニメーションを確認すると、典型的な高次のモード形状が励起されていることが確認できます。図4より、EL CENTROの地震波には高周波領域に高い応答が含まれているため、LNGタンクの高周波成分が励起されていることがわかります。
FSSI解析を用いることでLNGタンクの機器に作用する地震荷重を適切に考慮することができます。これにより設計の安全性を保ちつつ、過剰に保守的な設計を避けることでコストを削減できる可能性があります。

 

図5. 加速度のアニメーション(単位:g、変形倍率:200

 

 

図6. 変位のアニメーション(単位:m、変形倍率:200

 

図7. 節点Aの加速度時刻歴(Y方向)

 

図8. 節点Aの変位時刻歴(Y方向)

 

 

図9. 節点Aの応答スペクトル

 

参考文献

[1] 経済産業省 資源エネルギー庁, https://www.enecho.meti.go.jp/en/category/special/article/detail_162.html, 2023年3月24日

[2] Mertz, G., Snyder, M., Cuesta, I., Flores, G.L., Azad, M., and Watkins, D. (2019). Improvements in Frequency Domain Soil-Structure-Fluid Interaction Analysis of Nuclear Power Plants. 25th Conference on Structural Mechanics in Reactor Technology. Charlotte, NC, USA, August 4-9, 2019.

[3] Jin, B.M, Jeon,  S.J., Kim, S.W., Kim, Y.J., Chung, C.H., Earthquake response analysis of LNG storage tank by axisymmetric finite element model and comparison to the results of the simple model, 13th World Conference on Earthquake Engineering Vancouver, B.C., Canada, August 1-6, 2004, Paper No. 394

[4] 一般社団法人建築性能基準推進協会 , https://www.bcj.or.jp, 2023年3月24日

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