MP-PIC法による噴流層の解析

MP-PIC法による噴流層の解析

はじめに

OpenFOAMには,固体粒子の挙動を解析するためのソルバーとして,MP-PIC(Multiphase Particle-in-Cell)法を用いるMPPICFoamがあります。MP-PIC法では粒子間衝突を応力モデルで近似するためDEM(Discrete Element Method,離散要素法)を用いるDPMFoamに比べて計算負荷が小さく,粒子数の多い解析を行う場合に有用です。

ここでは,化学装置や造粒装置で使用される噴流層に対してMPPICFoamで解析した例をご紹介します。

 

MP-PIC法

MP-PIC法では,粒子間衝突を応力モデルで近似します。粒子の運動方程式は次式で表されます。

 

 

ここでは粒子の速度,はそれぞれ粒子の密度と体積分率,は粒子に働く応力,は重力の加速度,は粒子に働く流体力を示します。右辺第一項が粒子間衝突をモデル化した応力項を示しています。

 

解析モデル

解析モデルを図1に示します。

 

図1 解析モデル

 

モデルの奥行き(x方向)は15㎜,幅(y方向)は150㎜,高さ(z方向)は750㎜です。空気はモデル下部(slitとbottom)から流入し,上部(top)から流出します。側面(wall)はノースリップ条件,前後面は対称条件が課されます。

噴流層の粒子挙動はslitとbottomの流速を変えることで大きく変化します。本解析では表 1に示す2つのケースの解析を行いました。

 

表1 空気の流入速度

中心部(slit) 両側(bottom)
Case A 30 m/s 1.5 m/s
Case B 20 m/s 3 m/s

 

粒子(ガラスビーズ)の物性値を表2に示します。

 

表2 粒子の物性値

物性
直径 2.5 mm
粒子数 24750

 

解析結果

図2に粒子挙動と気相の流速分布の動画を示します。

 

 

Case A

 

 

Case B

図2 粒子挙動と気相の流速分布

 

Case Aの場合には,底面の中心部両側では空気の流入速度が小さく中心部で大きいため,中心部で粒子が吹き上がる噴流層が形成されていることがわかります。他方,Case Bの場合には,底面の中心部両側の流速が大きくなるため粒子全体が吹き上げられ,流動層の中に噴流が形成されています。

図3にz=0.15断面での気相のz方向平均流速分布を示します。図3には,本解析で使用したMPPICFoamに加えて,DPMFoamの結果と粒子間衝突にハードスフィアモデルを使用した結果[1]も示しています。

 

Case A

Case B

図3 気相のz方向流速分布

 

Case Aでは,DPMFoamとハードスフィアモデルでは中心部と両側部に計4つの極大値が発生していますが,MPPICFoamでは両側部のピークの位置が側壁に近いところで発生しています。

Case Bの場合には,すべてのモデルで2つの極大値が発生していますが,DPMFoamとMPPICFoamでは極大値の位置がハードスフィアモデルと比べて中心付近で発生しています。

MP-PIC法を用いるMPPICFoamは計算負荷が小さく,計算時間がDPMFoamに比べて3分の1程度ですみます。MPPICFoamは粒子間衝突を正確に計算したい場合を除けば,多くの粒子数を扱う必要のある解析で有用となる解法です。

 

参考文献

1.J.M. Link et al., Chemical Engineering Science 60 (2005) 3425 – 3442

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