片側腹斜筋張力制限がスクワット動作における腰椎椎間関節圧縮力に与える影響

片側腹斜筋張力制限がスクワット動作における腰椎椎間関節圧縮力に与える影響

概要

片側の腹斜筋張力が低下する事象は、スポーツ現場においてしばしば見られます。また、腹斜筋量の左右差が腰痛の危険因子となりうることも報告されています。しかし、片側の腹斜筋張力が低下することによって、腰部への力学的負荷がどのように変化するかについては、十分に検討されていません。AnyBody Modeling Systemでは、特定の筋の発揮張力を制限した条件を設定した解析が可能です。そこで、アスリートのトレーニングとして広く用いられるスクワット動作を対象に、片側の腹斜筋張力が低下した場合と、両側で同程度の張力を発揮している場合とを比較し、腰部障害との関連が指摘されている腰椎関節への圧縮力がどのように変化するかを検討した、本事例についてご紹介いたします。

 

筋の発揮張力の制限

AnyBody Modeling SystemにはAnyMuscleActivityBoundというクラスがあり、こちらを使用することで、特定の筋のActivity(筋が実際に発揮した張力/筋が発揮できる最大張力)に上限値を設定することができます。AnyBodyでは、1つの筋を複数の筋線維で表現している場合があるため、筋全体ではなく筋線維レベルで発揮張力を制限する設定が可能となっています。

 

方法

スクワット動作は、大腿が地面と平行となるパラレルスクワットとし、1.5秒でしゃがみ、1.5秒で立ち上がる計3秒の動作としました。動作条件による左右差の影響を排除するため、動作は左右対称に設定しています。片側の腹斜筋張力に制限を加えていない条件を条件①とし、右側の内腹斜筋および外腹斜筋の Activity の上限を2%に設定した条件を条件②としました。条件①と条件②では、動作条件自体は同一としています。また、スクワット動作は負荷条件によって腰部への力学的負荷が変化すると考えられるため、外部負荷として 0 kg、40 kg、80 kg の 3 条件を設定しました。

 

 

解析対象は、腰部への力学的負荷の評価指標としてL5–S1 レベルの腰椎椎間関節圧縮力、圧縮力に関連する因子として、左側の腹斜筋 Activity、脊柱起立筋 Activity、および腰方形筋 Activity としました。L5–S1 は椎間板ヘルニアが好発すると報告されているため、本解析の対象としています。また、腹斜筋は体幹の側屈および回旋に関与する筋であることから、腹斜筋の機能低下を代償すると考えられる脊柱起立筋および腰方形筋についても解析対象としました。

結果

解析対象とした筋は複数の筋線維を有しており、各線維の傾向も同じであることから、各筋から1つの線維を選択してグラフに表示しております。右側腹斜筋の Activity を制限した条件②において、設定どおり右側外腹斜筋のActivityが小さくなっていることを確認しております。

 

L5-S1間の圧縮力は、右側腹斜筋の Activity を制限した条件②において、条件①と比較して高くなる傾向がみられました。また、スクワットの負荷重量が増加するにつれて、条件①と条件②の圧縮力の差が大きくなる傾向が認められました。

左外腹斜筋のActivityは、右側腹斜筋の Activity を制限した条件②において、小さくなる結果となりました。

脊柱起立筋は、右側腹斜筋の Activity を制限した条件②において、Activityが高くなる傾向がみられました。また、スクワットの負荷重量が増加するにつれて、条件①と条件②のActivityの差が大きくなる傾向が認められました。

腰方形筋も脊柱起立筋と同様に、右側腹斜筋の Activity を制限した条件②において、Activityが高くなる傾向がみられました。また、スクワットの負荷重量が増加するにつれて、条件①と条件②のActivityの差が大きくなる傾向が認められました。

考察

右側の腹斜筋の Activity を制限した条件②では、対側である左側の腹斜筋の Activity も低下する結果となりました。腹斜筋は体幹の側屈および回旋に作用する筋であるため、右側の腹斜筋の張力が低下した状態で左側の腹斜筋が相対的に張力を発揮すると、体幹に側屈・回旋モーメントが生じます。このモーメントを打ち消すためには、右側の脊柱起立筋や腰方形筋による追加的な張力発揮が必要となります。そのため、左側の腹斜筋のActivityも減少させることで、体幹の側屈・回旋モーメントを抑制したと考えられます。

一方で条件②では脊柱起立筋と腰方形筋のActivityが増加する結果となりました。脊柱起立筋と腰方形筋は体幹の側屈作用を有します。両側の腹斜筋張力が減少したことにより、体幹の側屈および回旋に対する安定性が低下したため、この不足した体幹安定性を補う形で、脊柱起立筋および腰方形筋の Activity が代償的に増加したものと考えられます。また、脊柱起立筋と腰方形筋は、腹斜筋と比較して脊柱との距離が近く、体幹を安定させるためのモーメントを発揮するためには、相対的に腹斜筋以上の張力が必要となります。そのため、脊柱起立筋と腰方形筋のActivityが高くなったと考えられます。

脊柱起立筋と腰方形筋の発揮張力が増大すると、腰椎間を押し付ける力が増加します。その結果、L5-S1間の圧縮力が増大した可能性が示唆されます。

以上

 

 

 

 

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