”膝の解析”のためのAnyBody モデルスクリプトセレクション

”膝の解析”のためのAnyBody モデルスクリプトセレクション

人体の部位の中でも、『膝』は、AnyBodyの解析対象として、多くの研究者に取り上げられており、目的や用途に応じて様々な解析方法が試みられています。以下にいくつか、そのバリエーションをご紹介します。

テラバイトでは、いずれの方法もユーザ様には、サンプルモデルスクリプトをご提供可能です。ご興味あるものにつき、弊社技術サポート宛までお知らせください。またユーザ様のご要望に応じて、個別にウェブ(Teams)によるモデル解説も行っております。ご自身のご研究にぜひご活用ください。


#1 . 拡張モデル:デフォルトのヒンジ【蝶番】関節モデル(1自由度)から、球面関節モデル+内外側顆反力モデルへ

通常、バイオメカで扱う剛体リンクモデルの場合、膝の可動特性から、屈曲/伸展の動作のみが考慮される、ヒンジジョイント【蝶番関節】で構成されるのが一般的です。このモデルでは、屈曲伸展動作のためのトルク(モーメント)は、もちろん筋肉が担いますが、実人体構造に相当する、膝回りの固定・保持(各種リガメント【靭帯】や、脛骨-大腿骨間の内外側部コンパートメントでの要素間の接触によるもの)は、ヒンジジョイントの5自由度拘束(並進3成分、内外反および軸まわりモーメント)によって模擬されます。

本モデルでは、通常のヒンジ膝モデルをベースに、機能拡張により、

  • a) 膝の3軸可動(屈曲伸展+内外反挙動 および軸まわり挙動)追加
  • b) 内外側顆の大腿骨と脛骨間の接触反力のモニタ

を可能としています。これにより例えば、内外反モーメントは、より実人体に即し、内外側部コンパートメント反力に置き換わることになります。AnyBodyの力要素機能(AnyGeneralMuscle)を用いて、内外側の接触構成は、1点接触でなく、各接触エリアを考慮した力の分配が考慮されます(下図)

 

本モデルによる接触反力が検証されました。


本モデル手法は、以下の論文でも検証されています。

“The effects of knee pain on knee contact force and external knee adduction moment in patients with knee osteoarthritis”

MomokoYamagata MasashiTaniguchi HiroshigeTateuchi MasashiKobayashi NoriakiIchihashi
Journal of Biomechanics、Volume 123, 23 June 2021, 110538

開発元の以下論文での比較(測定とモデル)と同等の結果となっています。

“Relationship between knee joint contact forces and external knee joint moments in patients with medial knee osteoarthritis: effects of gait modifications “ ・・・R.E. Richards , M.S. Andersen , J. Harlaar , J.C. van den Noort ,   Osteoarthritis and Cartilage 26 (2018)


#2 . 膝の最上位モデル:(knee_grand_challenge_4thでのモデル)

本モデルでは、膝部分が可能な限り忠実に再現されています。すなわち

  • FDKモデル
  • 靭帯モデル
  • 接触要素モデル
  • 患者様骨の表面(STL)データにより、モーフィング

が考慮されます。

本モデルは、Grand Challenge Competition to Predict In Vivo Knee Loads (リンク→ https://simtk.org/projects/kneeloads) の第4回大会の入力データセットが考慮されています。骨とインプラントの両方の形状に関するSTLファイルや、C3Dファイル形式の患者実験のモーションキャプチャデータが含まれています。特に骨のスケーリング、筋力の調整、靭帯の構成など、人体モデルのカスタマイズに関連するファイルが含まれています。

FDK,靭帯、接触要素を考慮した詳細膝モデル

 

 患者の骨の画像データ(CTデータ)を反映

それぞれ、以下の開発元サイトをご参照ください:

本モデル機能により

  • ①粗大な動き(関節中心のずれがない計算)から、いったん通常の逆動力学による内部力(筋力・関節力など)を算出
  • ② ①の力条件にて、
    a)受動要素である靭帯 (伸び量に対応した張力発生)
    b)同じく受動要素である内側・外側コンパートメント(接触反力:接触面積に比例した反発力発生)
    によって、①とa)b)の力が釣り合うまで、関節中心のずれ・・・・つまりa)の伸び量と、b)の接触面積を反復計算
  • ③受動要素として釣り合う、a) の張力、b)の接触力を算出
  • ④患者固有の骨形状から、筋付着位置、関節中心、筋のラッピング箇所が考慮

されることになり、より詳細な解析が可能(Output:内外側顆接触反力、各靭帯張力)となります。


#3 . AnyKnee

AnyKneeは、AnyBodyで使用できる一般的なヒンジモデルの代わりに使用できる2種類の膝関節を導入したスタンドアロンモデルです。これらの関節には、スケーラブルな移動軸脛骨大腿関節、および大腿骨顆表面フィットに基づくヒンジ脛骨大腿関節が含まれます。これらの2つの例はほんの始まりにすぎませんが、実際には、*任意の*ユーザー定義の膝関節を実装できます。これらの例により、ユーザーは独自の膝関節タイプを開発してAnyBodyに簡単に追加できるようになります。

GITHUBからモデル取得可能 → https://github.com/AnyBody/anyknee

筋骨格系膝関節モデルは、一般的な品質と計算時間に応じて、単純な一般的(ヒンジ)から複雑な被験者固有(多体接触)までさまざまです。複雑さのレベルの選択は、尋ねられる研究の質問と、膝の運動学がどれほど現実的である必要があるかに依存します。現実的な運動学を必要とする研究には、病理学の調査(KOAなど)や、健康な生体力学を最もよく回復するための外科的インプラントの設計が含まれます。

移動軸関節モデルは、約0度と90度の2つの脛骨大腿骨屈曲角度に基づいており、関節軸が屈曲の関数としてこれら2つの位置の間を直線的に移動するように関節をモデル化しています。移動軸の背後にある目新しさは、一般的に使用されているヒンジよりも現実的な関節運動学を提供するだけではないことです。しかし、それはまた、より高度な多体接触モデルと比較して臨床アプリケーションへのアクセシビリティを増加させるかもしれない被験者固有のジオメトリを持つ計算的に高速なモデルを可能にします。詳細については、Journal of Biomechanicsの出版物をご覧ください。

Dzialo CM, Pedersen Heide P, Simonsen CW, Krogh K, de Zee M, Andersen MS., 2018, “Development and validation of subject-specific moving-axis tibiofemoral joint model using MRI and EOS imaging during a quasi-static lunge,” J Biomech 2018., 72, p.71-80.


#4. Knee Simurator

膝インプラントモデルと力依存運動学(FDK)を使用した膝シミュレーターのモデルです。

https://anyscript.org/ammr-doc/auto_examples/Orthopedics_and_rehab/plot_KneeSimulator.html

これは、Kansas膝シミュレーター1)原理に似た膝シミュレーターデバイスのスタンドアロンデモモデルです。モデルはスタンドアロンモデルとして構築され、モデルリポジトリ(AMMR)の要素やボディパーツを使用しません。人工膝関節全置換術(TKR)インプラントのデータは、第6回グランドチャレンジコンペティションから得られ、生体内の膝の負荷を予測します。

<セグメント>

モデルは、5つの主要なセグメント(大腿骨、膝蓋骨、脛骨、足首固定具、股関節固定具)で構成されています。実際には、より多くのセグメントが含まれます。大腿骨/脛骨の質量は、慣性モーメントを簡単に指定できるように、個別のセグメントとして実装されています。同様に、足首と地上のセグメント間の球形横断メカニズムは、回転ジョイントとスライダージョイントで接続された3つのセグメントを使用して実装されます。

<靭帯>

靭帯は、1次元の非線形弾性ばね要素を使用してモデル化されます。靭帯が骨/インプラントの表面を貫通しないようにするために、さまざまな幾何学的形状(円柱、楕円体など)を包帯で包みました。靭帯の特性は、文献2)および3)から採用されました。

 

参考文献:

 Andersen, M. S., de Zee, M., Damsgaard, M., Nolte, D., & Rasmussen, J. Introduction to Force-Dependent Kinematics: Theory and Application to Mandible Modeling. J Biomech Eng. 139(9), 091001 (2017). doi: 10.1115/1.4037100

1) Halloran JP, Clary CW, Maletsky LP, Taylor M, Petrella AJ, Rullkoetter PJ. Verification of predicted knee replacement kinematics during simulated gait in the Kansas knee simulator. J Biomech Eng. 132(8), 081010 (2010). doi:10.1115/1.4001678

2) Blankevoort, L., Kuiper, J. H., Huiskes, R., and Grootenboer, H. J., “Articular Contact in a Three-Dimensional Model of the Knee,” J. Biomech., 24(11), pp. 1019–1031, (1991). doi:10.1016/0021-9290(91)90019

3)  Marra, M. A. et al. A subject-specific musculoskeletal modeling framework to predict in vivo mechanics of total knee arthroplasty. J. Biomech. Eng. 137, 020904 (2015). doi:10.1115/1.4029258

4) Shelburne, K. B., Torry, M. R. & Pandy, M. G. Contributions of muscles, ligaments, and the ground-reaction force to tibiofemoral joint loading during normal gait. J. Orthop. Res. 24, 1983–1990 (2006). doi:10.1002/jor.20255

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