FSSで構成されたコーナリフレクタのRCS解析

FSSで構成されたコーナリフレクタのRCS解析

概要

 互いに直交した3枚の導体板からなるコーナリフレクタは、広い入射角にわたって大きいレーダ断面積(RCS: Radar Cross Section)を持ち、追尾レーダの標的やラジオビーコンなどに利用されます。ここでは、導体板の代わりにFSS[1]で構成されたコーナリフレクタについて、ホーンアンテナからの照射に対するRCSを解析した結果を説明します。

[1] FSSは Frequency Selective Surfaces の略称で周波数選択面のことです。FSSは周波数によって透過反射率が異なる特徴を持っています。

 

解析モデル

 図1にホーンアンテナとコーナリフレクタの解析モデルを示します。コーナリフレクタは互いに直交した3枚のFSSで構成されています。ここで使用したFSSは、図1の右上に示すようなクロス形状の金属パターンが周期的に並んだ構造です。 ホーンアンテナから照射される周波数8GHzおよび12GHzの電磁波が、コーナリフレクタに入射する場合のバイスタティックRCS[2]を算出します。

 

図1 ホーンアンテナとFSSで構成されたコーナリフレクタの解析モデル

 

[2] レーダの送信アンテナと受信アンテナが異なる位置にある場合のRCSをバイスタティックRCSといいます。

 

FSSの透過反射特性

 図1のモデルを幾何光学法(GO)で解析するために、あらかじめFSSの透過反射特性を算出しておきます。図1の右上に示すクロス形状の金属パターン単体のモデルを作成し、対称性のある2次元方向に周期境界条件を設定します。このモデルに様々な方向から電磁波(平面波)を照射して透過反射特性を算出し、データファイルとして保存します。

 図2に、FSSの透過反射特性を示します。これは、電磁波(平面波)が無限に広がるクロス形状の金属パターンのFSSに垂直に入射した場合の透過反射特性に相当します。電磁波は、8GHz付近でほとんど反射し、4GHz以下および12GHz以上でほとんど透過することが確認できます。

 

図2 FSSの透過反射特性

 

解析結果

 このモデルのバイスタティックRCSを、モーメント法(MoM)と幾何光学法(GO)で解析しました。FSSは、MoMでは金属パターンをそのままモデル化し、GOでは前項で算出した透過反射特性を持つ表面としてデータファイルを設定してモデル化します。なお、物理光学法(PO)では、透過反射特性を持つ表面としてのモデル化ができないため解析は実行していません。
 波源は、ホーンアンテナ単体をMoMで解析して抽出した球モード等価波源を用いています。リフレクタへの入射角度は、方位角φ45°、仰角θ 54.7°で一定とし、仰角θが0~90°の範囲でのRCSを算出します。
 図3に8GHzのRCSを、図4に12GHzのRCSを、それぞれ示します。MoMとGOのRCSは概ね一致しています。また、
8GHzでのRCSは導体版のRCSと類似しています。一方、12GHzでのRCSはレベルが非常に低くなっています。これは、FSSが、8GHzの電磁波をほとんど反射するのに対し、12GHzの電磁波をほとんど反射しないためです。

図3 バイスタティックRCS (8GHz)

 

図4 バイスタティックRCS (12GHz)

 

計算コスト

 表1に、RCS解析における計算コストを示します。高周波近似法であるGOの場合は、完全解法であるMoMの場合に比べて、所要メモリおよび計算時間が少なくて済みます。

 

表1 RCS解析の計算コスト

まとめ

 FSSで構成されたコーナリフレクタについて、ホーンアンテナからの照射に対するバイスタティックRCSをモーメント法(MoM)と幾何光学法(GO)を用いて解析し、それらの結果と計算コストを比較しました。両者の結果は概ね一致し、FSSの周波数特性を反映していることを確認しました。高周波近似法であるGOでは、完全解法であるMoMに比べて所要メモリと計算時間が少なくて済むことを確認しました。
 Fekoでは、解析の目的、モデルの規模、計算機の性能などを考慮して様々な手法やモデル化を選択し、RCSの検討をすることができます。

 

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