渦巻きポンプのエロージョン解析

渦巻きポンプのエロージョン解析

1. はじめに

近年、異常気象の影響で河川の氾濫が頻発し、泥水の排水に水中ポンプが活躍する場が増えています。水中ポンプは、インペラーを高速回転させて液体を搬送しますが、この際、水中に混入している土砂が水中ポンプと高速で衝突し、金属表面が摩耗するエロージョンが発生します。エロージョンは水中ポンプの性能低下や故障を引き起こす原因の一つです。

水中ポンプの性能評価や機能改善において、CAEソフトはスケーリング、開発期間、費用の面からみて強力な支援ツールとなります。エロージョンの問題に焦点を当てた場合、水の流れだけでなく粒子(土砂)同士の衝突を考慮する必要があります。このため、流体解析ソルバーと個別要素法ソルバーの2つの異なるソルバーの連成計算が必須となります。

(※ 市販の流体ソフトに実装されている粒子追跡機能では、粒子同士の衝突は考慮できません。 粒子同士の衝突を考慮するためには、個別要素法ソルバーが必要です。)

本資料では流体解析(CFD)ソルバーAcuSolveと個別要素法(DEM)ソルバーEDEMを利用して、簡易的な渦巻きポンプにおけるCFD-DEM連成解析について紹介します。図1に、渦巻ポンプの概要図を示します。インペラーの設置位置を変更した2ケースの計算を行い(図2参照)、ポンプ表面の摩耗と砂粒子の排斥状況を比較しました。なお計算は0.8秒間としました。

 

 

 

 

2. 解析モデル

図3に計算条件を、図4にメッシュ図を示します。インペラーの位置以外、ケース1と2の計算条件は全て同じ設定で計算します。このため、2つ計算ケースで流量に差が生じた場合、その原因はインペラーの位置によるものと判断する事ができます。

 

 

 

 

 

◆水

密度:1000 kg/m3

粘度:0.001 Pa・s

 

◆土砂

形状:球体

粒子径:1 mm

密度:2500 kg/m3

 

 

3. 流体解析(CFD)と個別要素法(DEM)の連成

今回の条件は、大量の土砂を流入させるわけではないため粒子は密に配置されませんが、局所的に粒子が溜まりやすい箇所が発生するため、流体と粒子がお互いに影響し合うtwo-wayカップリングで計算します。なお、粒子レイノルズ数は60000程度です。

計算に使用した抗力モデルは、中程度の粒子密度に対応可能で粒子レイノルズに応じて計算式を変更できるWen-Yuモデルを適用しました。また、揚力はSaffman-Magnusモデルを適用しました。なお、流体解析ソルバーAcuSolveと個別要素法ソルバーEDEMは、どちらも(米)Altair社のソルバーであるため、連成解析の設定に複雑な作業を必要としません。

 

Wen-Yuモデルの抗力係数Cd

 

 

 

Zhang Yinghui,Lan Xingying,Gao Jinsen  Modeling of gas-solid flow in a CFB riser based on computational particle fluid dynamics  Petroleum Science.2012.9:535-543

 

4. エロージョンの表現

エロージョンは、EDEMに実装されているOka-Wearモデルを利用します。 Oka-Wearモデルでは、粒子の衝突エネルギーと衝突角を元に、固体表面の摩耗量を以下の式で算出します。

 

Dwは摩耗深さ、αは粒子衝突角、gは衝突角依存性、Eは摩耗量、mpは粒子質量、Aは要素の大きさ

 

なお、 Oka-Wearモデルで必要となる材料固有の硬度と摩耗定数は、一般的なステンレス鋼の値を定義しました。

 

 

5. 計算結果

AcuSolve側の計算結果として、図5に代表時刻における流線を、図6に水平断面の流速のアニメーションを示します。表1に各計算ケースの流量を示します。

 

 

EDEM側の計算結果として、図7に粒子の挙動のアニメーションを示します。図8に最終におけるインペラーとポンプ壁面の摩耗状況を示します。図9に計算領域内の粒子数を示します。

 

 

 

 

 

 

6. まとめ

流体解析(CFD)ソルバーAcuSolveと個別要素法(DEM)ソルバーEDEMによる、簡易的な渦巻きポンプのCFD-DEMの連成解析を実施しました。

AcuSolveの計算結果では、インペラーの回転軸を流出口側に寄せたケース1の方が、ケース1より大きな流量を得ることができました(表1参照)。一方、EDEMの計算結果では、インペラーの摩耗はケース2の方が、ポンプ壁面の摩耗はケース1の方が、若干ではありますが、大きな値となりました(図8参照)。また、土砂の排出能力はケース2の方が高い結果となりました。計算条件にもよりますが、流量が多いからといって、必ずしも土砂の排出能力が高くなるわけではありません。

CFD-DEMの連成解析を実施する事により、流体解析単独では確認が難しい摩耗や土砂の排出能力を確認する事が可能となります。CAEでは、インペラーの角速度や土砂のサイズ等、様々な条件変更を少ないコストでスケーリングの問題を気にすることなく調査することができます。特にAcuSolveとEDEMはどちらもアルテア社の製品のため、追加費用や複雑な連成設定なしで計算を実行する事が可能となります。

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