EDEM APIと連成解析を用いた空気輸送の静電気シミュレーション

EDEM APIと連成解析を用いた空気輸送の静電気シミュレーション

1.粉体の静電気現象

粉体を装置から装置へ輸送する際の方法には流体(空気・水)による輸送とベルトコンベアなどの機械による輸送がありますが、軽く水に溶けやすい粉末材料を輸送するには空気輸送が適しており、食品・医薬品・化学工業製品などの原材料で主に導入されています。

 

以下は空気輸送の輸送管と貯蔵装置(サイロ)の模式図です。高さのあるサイロを粉体で満たすには、このように高い位置から粉体を注入する必要があり、空気輸送により粉体を持ち上げることで実現されます。

典型的な輸送管(青)と分離器(赤)

吸湿や汚れを避けることができ、飛散による材料のロスもなく、装置が小規模で輸送路の自由度が高いといった利点を持つ空気輸送装置ですが、避けることのできない問題点に、静電気の問題があります。

静電気は火災や爆発、また感電の重大なリスクになるとともに、輸送管の閉塞も引き起こします。そのため、適切な対策をとる必要があり、シミュレーションはその有力な手段です。

 

2.EDEMにおける連成解析

空気輸送をシミュレーションする場合、粉体の流れは離散要素法(DEM)の、空気の流れは流体シミュレーション(CFD)の領域です。

このように、異なる物理現象を同時に考慮するシミュレーションのことを、連成解析といいます。

連成解析においては、それぞれの物理現象の相互作用を考慮する必要がありますが、問題設定によっては特定方向の相互作用が無視できるほど小さいことがあり、そうした場合には実際に無視することで計算を高速化することができます。

特に、二つの物理現象の連成に関して、一方向の相互作用のみを考える方法を一方向連成、双方向の相互作用を考える連成を双方向連成といいます。

 

EDEMは同じAltair社(流体の場合AcuSolve)の製品との連成機能を標準搭載しており、複雑な設定をすることなく一方向連成、双方向連成のいずれでも実行することができます。

3.EDEMにおける静電気シミュレーション

EDEMには摩擦帯電と電気相互作用の機能が標準で備わっています。特に、摩擦帯電の帯電量qは次の式で表されます。

(α,βは比例定数、qmaxは表面電荷の最大値)

しかしながら、この摩擦帯電は異なる素材が接触したまま転がるなどの現象、いわゆる接触帯電の数理モデルを実装したものです。

このモデルでは接触時間が短いほど帯電量も短くなります。一方で、壁面に粒子が高速で衝突すると、接触時間が極めて短いため、接触帯電のモデルからはわずかな帯電量が予測されますが、実際の実験では接触モデルによる推定値よりも高い帯電量が計測されています。そのため、このような帯電を衝突帯電と呼び、接触帯電とは区別します。

 

 

摩擦帯電現象を理論的に解明することはいまだ成し遂げられていませんが、実験により1粒子の帯電量が次の式によく従うことが知られています。

以上のように、接触帯電と衝突帯電は別々の式によって帯電量が予測され、後者はEDEMの標準機能に含まれていません。

今回は、EDEMのAPIを用いて、衝突帯電を考慮した静電気のシミュレーションを行います。

4.EDEM API(Application Programming Interface)

EDEMでは、考慮したい要素が標準機能にない場合でも、API機能を用いてシミュレーションを実行することができます。

 

EDEM APIのソースコードはC++を用いて記述され、さまざまな用途に活用できます。たとえば、次のような機能がAPIを用いて実現可能です。

  • 標準の接触モデルが当てはまらない材料の粉体に対し、独自の接触モデルを実装する。
  • 粒子径が均一でない粉体に対し、粒子径分布を任意に指定して生成する。
  • 壊れやすい材料の粉体に対し、衝突による分裂を実装する。
  • 接触や与えられた物理場、または時間経過に応じて電荷などの標準変数や水分量などのカスタム変数を操作し、また変数に応じて剛性、弾性、凝集力、粒子半径などの物性を変化させる。
  • 電荷や磁性を持つ粒子に対し、外部からの電磁場や粒子同士の相互作用による力を作用させる。また、粒子やジオメトリに帯電や磁化を発生させる。
  • 粒子の挙動を標準機能よりも詳しく追跡する。

 

今回は、衝突の際に帯電を発生させるモデルを作成し、空気輸送のシミュレーションを行いました。

5.解析モデルの概要

今回の解析では、輸送管のモデルとして次のような曲げパイプを用います。

今回は空気流を生み出している空気圧縮機(ブロワ)のシミュレーションは行わず、入口から一定の流速で空気が送り込まれているものとします。

 

また、空気流が粉体から受ける影響は無視できるほど小さいものとして連成は一方向とし、さらに、空気流は定常流でよく近似されるものとして計算時間を短縮します。

EDEMとAcuSolveの場合、定常流を用いた連成は通常の一方向連成とは異なり、あらかじめ定常流をAcuSolveでファイルとして出力し、EDEMでそのファイルを読み込むことで行います。

 

加えて、次のような仕様の衝突帯電をAPIを用いて実装します。

  • 粒子と壁との一回の衝突につき、衝突帯電モデルの電荷量だけ粒子が正に、同じ量だけ壁が負に帯電する。

  • 粒子同士の衝突による電荷の移動は考慮しない。

 

具体的なパラメータおよび解析条件は、以下のように設定しました。

全体の条件

◦シミュレーション時間は2秒間

CFDの条件

◦空気の流れは定常

◦管の入口から空気をY軸正方向に30m/sで圧送

DEMの条件

◦粒子数は秒間64000個

◦粒子半径は2.5mm

◦衝突帯電と静電気力を考慮、接触帯電は考慮せず

◦帯電量の比例定数α_colは0.001(衝突帯電を見やすくするため、実際より大きな値を使用)

 

6.解析結果

このAPIを活用することで、衝突帯電による装置の帯電状態を確認することができます。

いかに解析結果を示します。

この解析では、ポスト処理として、壁面の電荷量は少ないほうから順に赤→緑→青と色付けしました。

 

 

また、このとき壁面を観察すると、実際の装置にもみられる静電気による粒子の付着を確認することができます。

 

続いて、粒子を速度によって色分けし、遅い粒子をピンク、速い粒子をイエローとして、中央のパイプを拡大しました。

このとき、時間が経過するにつれてピンク色の粒子が増えていきますが、これらのピンク色の粒子は静電気により壁面に吸着され静止しています。

7.まとめ

API機能を活用して、EDEM上に衝突帯電のシミュレーション機能を追加しました。

これを用いて、粉体輸送における静電気量の評価が行えるようになります。

 

また、このAPIは衝突帯電の最低限の機能を実装した簡易なものではありますが、よりよい物理モデルに合わせてAPIのソースコードを修正することで、さらに高度な予測が可能になります。加えて、静電気対策装置もAPIで再現することで、輸送装置一つ一つに対応した静電気対策を提案することも可能になります。

 

このように、EDEMのAPIを用いることで、他の市販ソフトの既存機能では賄えない特殊な環境における解析を実現することができます。

EDEM解析事例カテゴリの最新記事