1. 解析概要
本事例では、異種液体の混合、気液界面の動的な変形(自由表面挙動)、および温度場の変化(熱移動)といった複数の物理現象を同時に取り扱う解析をご紹介します。気体と同じように混じり合う液体(miscible)は、実際の工業装置においても用いられます。たとえば、化学プラントにおける攪拌槽、食品加工などでの液体混合操作が挙げられます。
これらの物理現象を同時に解析するため、interFoamソルバーをベースに、独自に拡張したカスタマイズソルバーを用いて解析を行いました。
本ソルバーが対応可能な主な物理現象は以下の通りです。
- 異なる液体の混合挙動(拡散)
- 自由表面を含む気液界面の変形・移動
- 熱伝導・対流による温度場の変化
2. 解析モデル
解析対象は、90℃のコーヒーが注がれたカップ内に5℃のミルクが滴下される状況を模擬したものです。「コーヒーにミルクを入れる」という操作によって、カップ内の液体には多くの物理過程(異種液体の混合、気液界面の動的変化、熱移動)が同時に発生することによって複雑な流れが発生します。
図1に示すように、カップは円筒形容器としてモデル化し、初期状態ではコーヒーが静置された状態から始めます。ミルクは上部液面付近から流入し、コーヒー内での拡散・混合挙動を計算します。ただし、異種液体の混合と温度変化による密度変化は運動量保存式で浮力項(重力項)でのみ考慮します(ブシネスク近似)。
スプーンによる攪拌操作を想定し、初期条件としてランキン渦(剛体回転、ポテンシャル流)の速度場を設定し、攪拌効果を与えます。
気液界面はVOF法(Volume of Fluid)で扱い、コーヒー表面の変形も解析対象に含めます。
図1 解析モデル
流体の物性値を以下に示します。
密度 [kg/m3] | 動粘性係数 [m2/s] | 比熱 [J/kgK] | 熱伝導率 [W/m] | 体膨張係数 [1/K] | |
空気 | 1.188 | 1.535e-5 | 1007 | 0.02572 | |
コーヒー+ミルク | 966.73 | 3.967e-7 | 4196.2 | 0.6671 | 0.0002 |
コーヒーとミルクの表面張力係数は0.06、初速度はU=(5y, -5x, 0)としています。温度の境界条件としては、カップ壁面で熱流束指定(10W/m2)、上面で断熱としています。ミルクは5秒間で約5mL投入します。
3. 解析結果
ミルクの濃度分布
以下の動画は、ミルクがコーヒー内に拡散・混合していく様子を、ミルク濃度のボリュームレンダリングにより可視化したものです。濃度が高い領域は白く不透明に、低濃度領域は透明で表現しています。撹拌によってミルクが広がった後、対流と拡散により徐々に均質化していく過程が確認できます。
コーヒーとミルクの温度分布
以下の動画は、ミルクの滴下によるコーヒー内の温度分布を温度のボリュームレンダリングにより可視化したものです。温度が高い領域(90℃)はピンク色に、87℃以下の温度を透明とし、その中間の温度を低い温度から順に青、緑、赤で示しています。
ミルクは攪拌によって旋回しながらカップ底部に向かい、90℃のコーヒーが5℃のミルクにより冷却される様子が示されています。ただし、ミルク投入量は5mLとコーヒーの容量(約225mL)に比べて小さいため、温度の低下幅は大きくありません。