1. ロウ付けについて
様々な産業機器の製造工程で利用されるロウ付けは、使用用途や目的によって、耐腐食性、高熱伝導性、強度等が求められます。ロウ材の物性とロウ付け時の成形条件によっては、内部に気泡がトラップされ、接合部の強度が著しく低下する場合があります。微小な気泡は、外部からの目視による確認は難しいですが、シミュレーションを活用すると、気泡のトラップ状況を簡単に確認することができ、ロウ付け状況の予測や、適切な成形条件の検討に使用することができます。

図1 様々なロウ付け
2. interFoamソルバーのカスタマイズ
流体解析でロウ付けを再現するため、ライセンスフリーの汎用熱流体解析ソフトOpneFOAMをカスタマイズし、VOF法のソルバーであるinterFoamに熱計算と合金の凝固溶融機能を追加しました。
液相線温度、固相線温度、物性値(比熱、プラントル数等)を設定し、凝固・溶融現象を計算します。セルの温度が液相線以上の場合は溶融状態とし、固相線以下の場合、凝固状態として流動を停止させます。セル温度が固相線から液相線の間にある場合は、半凝固状態とし、凝固率に比例した流動抵抗を付加します。
参考として、カスタマイズソルバーを利用して計算した、矩形状のロウ材が溶けていく様子のサンプルアニメーションを示します。溶融する合金の流れだけでなく、空気の流動も解くことができるため、ロウ付け時に発生する気泡のトラップも再現することができます。
初期状態:溶融した状態から開始
初期状態:凝固した状態から開始
図2 矩形状のロウ材が溶融していく様子(※ 現象時間を変えています)
3. OpenFOAMによるロウ付けの解析
前節で紹介したOpenFOAMのカスタマイズソルバーを利用した、フランジと銅パイプの接手部分のロウ付け事例を紹介します。今後流体解析ソフトの導入を検討されている方に流体解析ソフトの活用をイメージしていただくため、ここでは、架空のストーリーで、ロウ内部に空気がトラップされにくい初期条件を検討していく様子を説明します。
3-1. 解析の背景
CAEを活用して適切なロウ付けの成形条件を検討していきます。初めに、解析の背景を以下に示します。
解析の背景
「今回、新しいロウ材と製品形状でロウ付けをすることになりました。製品の使用環境上、ロウ付け部に高い応力が作用するため、気泡のトラップを可能な限り抑える必要があります。しかしながら、初めて使うロウ材のため、従来の経験と勘を元にロウ付けを行ってしまうと、気泡がトラップされる危険性があり、試行錯誤に時間がかかってしまいます。このため、初めに流体解析を実施し、適切な成形条件について、あたりを付けることにしました。」

図3 接手部分近傍の形状
3-2. 1ケース目の解析
初めに、解析でどのようなデータが必要になるか整理し準備します。今回の解析テーマでは、3次元CADデータ、境界温度、初期条件、接触角、材料物性等です 。材料物性は、材料メーカーから入手できない場合、自分たちで準備する必要があります。
1ケース目として、とりあえず従来の経験を元にした成形方法で熱流体解析を実施し、気泡がトラップされそうか確認してみます。図4と5に、解析モデルと初期のプリフォームリングの配置を示します。なお、解析領域はロウが溶融する部分のみ抜き出し、形状・条件の対称性から1/2解析モデルで作成しています。

図4 モデル概要

図5 プリフォームリングの配置
図6に、溶けたロウ材が接手部分の隙間に流れ込む様子を示します。紺色の箇所は凝固状態を、白色の箇所は溶融状態を示します。図7に、継ぎ手部分の空気領域を表示したアニメーションを示します。黄色い箇所が空気領域を示します。
(補足:溶融した合金の流動だけでなく、周囲の空気の流動も解くことができます)
図6. 1ケース目のロウ材の溶融
図7. 1ケース目の気泡のトラップ
残念ながら、今回設定した条件では、気泡がトラップされてしまう危険性があることがわかりました。溶融したロウ材が継ぎ手部分の微小な隙間に浸透する際に、パイプとプリフォームリングの隙間の空気が巻き込まれてしまう様です。プリフォームリングの断面形状を円形から矩形に変更すれば、パイプとプリフォームリングの隙間がなくなるので、気泡のトラップを抑えることができるかもしれません。

図8. パイプとプリフォームリングの隙間
(補足:実験では成形条件を変更するだけでコストがかかりますが、流体解析ソフトを活用すると、エンジニアの方が思いついた様々な条件変更の効果を簡単に試すことができます)
3-3. 2ケース目の解析
2ケース目では、プリフォームリングの断面形状を円形から矩形に変更し、パイプとプリフォームリングの間に隙間が存在しないように設定して計算してみます。

図9. 2ケース目のプリフォームリングの配置
2ケース目の溶けたロウ材が接手部分の隙間に流れ込む様子と、気泡部分を抜き出して表示したアニメーションを示します。
図10. 2ケース目のロウ材の溶融
図11. 2ケース目の気泡のトラップ
パイプとプリフォームリングの隙間を無くすことで、気泡のトラップを大幅に抑えることができました。念のため、プリフォームリングの断面形状が矩形であることが重要かもしれないので、プリフォームリングを広げ、断面形状が矩形のまま、パイプとプリフォームリングの間に隙間が存在する状態で計算してみます。
3-4. 3ケース目の解析
3ケース目として、2ケース目よりプリフォームリングの外径を大きくし、パイプとプリフォームリングの間に隙間が存在するようにロウ材を初期配置して計算してみます。

図12 3ケース目のプリフォームリングの配置
3ケース目の溶けたロウ材が接手部分の隙間に流れ込む様子と、気泡部分を抜き出して表示したアニメーションを示します。
図13 3ケース目のロウ材の溶融
図15 3ケース目の気泡のトラップ
プリフォームリングの断面形状が矩形でも、パイプとプリフォームリングの間に隙間が存在すると、気泡がトラップされてしまうようです。やはり、今回解析した隙間形状とロウ材の物性値において、気泡のトラップに対して重要なのは、断面形状ではなく、プリフォームリングとパイプの間に隙間が無い事の様です。
4. ロウ付け解析のまとめ
合金の凝固・溶融が再現可能なカスタマイズソルバーによって、気泡のトラップを抑える成形条件を見つけることができました。本ソルバーは、形状や物性を変更することで、様々なロウ付け時の条件検討に活用することができます。
注意:気泡がトラップされるかは、プリフォームリングの形状以外にも、隙間の幅や製品形状、ロウ材の材料特性、温度条件によっても大きく変化します。全ての継ぎ手部分の気泡のトラップの問題が、プリフォームリングの形状変更で解決できるわけではありません。
5. 補足:その他のカスタマイズソルバー
今回ご紹介した合金の凝固・溶融を再現するソルバーの他に、弊社はお客様の要望に応じて、様々なカスタマイズソルバーの開発サービスを実施しております。参考に、過去に作成したカスタマイズソルバーの一部をご紹介いたします。
参考URL: カスタマイズ事例 | OpenFOAM カスタマイズ・コンサルティング