異なるマグカップ把持姿勢における手指部の力学的負荷を定量化

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株式会社テラバイト

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数値シミュレーションにより把持方法の違いが関節モーメントに与える影響を解明

 要点

  • マグカップの把手把持・上方把持・側方把持の3姿勢を数値シミュレーションで再現

  • 手指関節に生じる関節モーメント[用語1](力学的負荷)を逆動力学解析で算出

  • 総関節モーメントは、側方把持、上方把持、把手把持の順で高値となることを解明

概要

 本研究は、数値シミュレーションによって定量化したマグカップの把持姿勢時の手指部に生じる力学的負荷を、異なる把持姿勢間で比較することで、手の人間工学に関する基礎的な知見を得ることを目的とした。ヒトの手指部をモデル化したDetailed hand modelを用いて、把手把持・上方把持・側方把持の3つのマグカップ把持姿勢における手指部に作用する関節モーメントを算出した。解析の結果、マグカップ把持時の手指部に生じる関節モーメントは、側方把持、上方把持、把手把持の順で高くなっていることが明らかとなった。本知見は,変形性手関節症などの手指部に関連する疾患を有する者の日常生活動作指導、手指部に作用する力学的負荷を軽減できる製品形状の考案・作成・評価、などの手の人間工学に関する基礎的な知見となりえる。

研究背景

 日常生活において手指部は物体の把持や操作など多様な動作に頻繁に用いられており、その機能維持は生活の質を支えるうえで極めて重要と考えられている。一方で、加齢に伴い変形性手関節症などの手指疾患の有病率は上昇し、疼痛や握力低下、日常生活動作の制限を引き起こすことが報告されている。これらの疾患の発症・進行には、関節軟骨への慢性的な力学的負荷が関与すると考えられているが、日常生活動作の中で手指関節に実際どの程度の負荷が生じているのかについては、定量的データが十分に蓄積されていない。

 手指部に生じる力学的負荷を定量化する方法として、計測と数値シミュレーションの2つのアプローチが存在する。現在のセンシング技術では、物体・手指部に作用する力を制限なく正確に計測することは難しく、実験的な条件下での単純なつまみ動作などの計測にしか対応することができない。一方の数値シミュレーションは,あくまでも物理法則に基づく推定にはなってしまうが,モデリング次第では物体把持などの日常生活動作に近い状況下における手指部の力学的負荷を定量化することが可能である。しかし、数値シミュレーションを用いて日常生活動作時の手指部に作用する力学的負荷を定量化した報告は少ない。

 そこで本研究では、日常生活動作において比較的実施頻度が高いことが想定されるコップ・カップの把持動作を数値シミュレーションで再現し、手指部に生じる力学的負荷を定量化することで、手の人間工学に関する基礎的な知見を得ることを目的とした。

研究成果

どのように手指部の力学的負荷を定量化するか?

 本研究では、ヒト手指部の骨格構造を再現したDetailed hand modelを用いた筋骨格モデル解析によって手指部の各関節に生じる関節モーメントを算出した。まず、把手把持・上方把持・側方把持の姿勢を逆運動学解析[用語2]によって再現し、次にその姿勢を成立させるために必要な関節モーメントと手指・マグカップ間反力を逆動力学解析[用語3]によって算出した。

 

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    図1. 解析対象とした3つのマグカップ把持姿勢

マグカップの持ち方の違いによって手指部に生じる力学的負荷は変化するのか?

 解析の結果、マグカップの持ち方によって手指部関節に生じる関節モーメントは変化することが明らかとなった。各手指部関節に生じる関節モーメントは、指ごと、マグカップ把持姿勢ごとに異なる傾向が見られた。また、手指部全体に作用する力学的負荷を評価するために、各手指部関節に作用する関節モーメントの絶対値の総和(総関節モーメント)を比較したところ、総関節モーメントは、側方把持、上方把持、把手把持の順で高値を示すことも明らかとなった。この結果は、同じ把持対象物体でも把持方法によって関節負荷が変化することを意味している。

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    図2. マグカップ把持時の手指関節モーメント
    CMCは手根中手関節、MCPは中手指節間関節、PIPは近位指節間関節、DIPは遠位指節間関節、IPは母指指節間関節をそれぞれ表している。

なぜ、手指部に生じる力学的負荷はマグカップの持ち方に応じて変化したのか?

 手指部に作用する関節モーメントが姿勢によって変化した主な要因は、(1)手指部・マグカップ間反力の分布の違い、(2)手指部各関節・マグカップ重心の位置関係の違い、の2つにあると考えている。まず、「(1)接触力の分布の違い」については、上方把持では指先に反力が集中している状態が確認された。一方の側方把持では、物体からの反力が全手指部に分散されている状態となっていた。過去に行われた研究では、指先に反力が集中した状況では手指部に作用する力学的負荷が高くなることが報告されており、本研究でも同様の状態が生じている可能性が考えられた。また、「(2)手指部各関節・マグカップ重心の位置関係の違い」については、把手把持では他の把持姿勢に比較してマグカップ重心から手指部関節までの距離(モーメントアーム長)が増大した状況となっていた。モーメントアーム長が増大している状況下では、マグカップを保持するために必要な力・モーメントも増大するため、この結果として、把手把持では他の把持姿勢に比較して総関節モーメントが高値となっていたことが考えられた。

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    図3. 手指部・マグカップ間反力分布および手指部関節・マグカップ重心位置関係の比較

社会的インパクトと今後の展開

 本研究は数値シミュレーションによって日常生活動作遂行時の力学的負荷を定量化できることを示した。このことは、以下に記載する社会的インパクトを有していると考えている。

  • 本研究の解析手法を、より現実的な日常生活動作・対象者の状態を反映できるように改善した上で、より広範囲な日常生活動作を対象とした手指部の力学的負荷データを集積することで、有効な患者指導プログラムの策定などに貢献することができる。
  • 個々の手指部に作用する力学的負荷を詳細に分析することで、母指の関節保護用装具のような特定の手指部の関節負荷軽減を目標とした製品の評価・開発に寄与することができる。

 今後は、多様な手の形態差や筋肉が実装された手詳細モデルによる解析、さらには他の日常生活動作への解析拡張を通じて、手指部負荷データベースの構築を進めることで、医療・福祉・産業分野の諸問題へ応用していくことを考えている。

論文情報

掲載誌:『人間工学』Vol.61, No.6(2025)
論文タイトル:異なるマグカップ把持姿勢における手指部に生じる力学的負荷の定量化
著者:徳永 由太、若宮 知輝、菊池 俊彦、半田 健祐、久保 宗平
DOI: https://doi.org/10.5100/jje.61.367

用語解説

[用語1] 関節モーメント
ある関節をまたいでいる筋肉によって生じる関節まわりの回転作用の総和。
[用語2] 逆運動学解析
モデルの有する任意部位の位置・角度を指定することで、そのモデルの姿勢を規定する解析手法。
[用語3] 逆動力学解析
運動学データ(関節角度・速度など)と外力データ(床反力など)を基に、関節モーメントや関節反力などの力学量を推定する解析手法。

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