Case

解析事例

Simcenter Fekoの時間領域解析

Simcenter Fekoの時間領域解析サムネイル画像

はじめに

 Simcenter Fekoの解析手法は基本的に周波数領域ですが、フーリエ変換と逆フーリエ変換を用いて時間領域解析を実行することができます。ここでは、その基本原理と時間領域解析を適用した事例を説明します 。

 

周波数領域と時間領域

 周波数領域の電磁波解析は、線形な解析モデルにおいて、設定した波源に対する複素電磁界を各周波数で計算する手法です。線形システムの観点では、これは波源から観測点への周波数応答を求めていることに相当します。特に観測点を固定して考えると、信号処理における伝達関数を求めることと数学的に同等と解釈できます。この場合、入力信号\(X(\omega)\)、出力信号\(Y(\omega)\)、伝達関数\(G(\omega)\)のイメージは図1のようになり、それらの関係は、\(Y(\omega)=G(\omega)X(\omega)\)となります。  

  • 図1_周波数応答
    図1 線形システムの周波数応答

 伝達関数(解析モデルの周波数応答)が求まると、以下の手順で時間応答が計算できます。

 

① 時間領域の入力信号\(x(t)\)をフーリエ変換して周波数スペクトル\(X(\omega)\)を計算する

    \(\mathcal{F}\{x(t)\}=X(\omega)\)

② \(X(\omega)\)に伝達関数\(G(\omega)\)を掛けて出力信号の周波数スペクトル\(Y(\omega)\)を計算する

    \(Y(\omega)=G(\omega)X(\omega)\)

③ \(Y(\omega)\)を逆フーリエ変換し、時間領域の出力信号\(y(t)\)を計算する

    \(\mathcal{F}^{-1}\{Y(\omega)\}=y(t)\)

なお、これらの手順において、以下の点に注意する必要があります。

・ 入力信号の周波数スペクトル\(X(\omega)\)は有限の周波数帯域を持つものとする

・ 伝達関数\(G(\omega)\)は入力信号の周波数帯域を十分に包含する範囲で求められているものとする

 

以上の手順のイメージは図2のようになります。

  • 図2_時間応答
    図2 線形システムの時間応答

 Simcenter Fekoでは、以上のような原理に基づいて、周波数領域の電磁波解析を実行してから時間領域の解析を実行できます。

 

適用事例

解析モデル

 図3に、解析対象のマイクロストリップ線路を示します。このモデルでは、線路長40 mm、線路幅4mm、基板厚2mm、基板比誘電率4.0です。このマイクロストリップ線路の特性インピーダンスは約50Ωです 。

  • Feko_20261020_034_01_01
    図3 マイクロストリップ線路

周波数領域解析

 終端抵抗を50、75、100Ωに設定した3通りのモデルについてFekoで電磁波解析を実行し、信号源をPort1、終端抵抗をPort2としてSパラメータを計算します 。

 Sパラメータの計算結果を図4に示します。図4のa、b、cはそれぞれ終端抵抗が50、75、100Ωの場合です 。

  • 図4a_Spara_R50
    (a) 終端抵抗=50Ω
  • 図4b_Spara_R75
    (b) 終端抵抗=75Ω
  • 図4c_Spara_R100
    (c) 終端抵抗=100Ω
    図4 マイクロストリップ線路のSパラメータ

 図4(a)では、マイクロストリップ線路の特性インピーダンスと終端抵抗が整合しているため反射がほとんどなく、S11は-35dB以下、S21はほぼ0dBです。

 一方、図4(b)と(c)では、マイクロストリップ線路の特性インピーダンスと終端抵抗が整合していないため反射が生じていて、(a)と比較してS11は増加しS21は低減しています 。

 回路理論では反射係数\(\Gamma\)の大きさは\(|\Gamma|=\left|\frac{Z_c-Z_t}{Z_c+Z_t}\right|\)であることが知られています。ここで、\(Z_c\)は伝送線路の特性インピーダンスの値、\(Z_t\)は終端抵抗の値です。この式から算出したSパラメータの理論値と図4の計算値を表1、2に示します。なお\(Z_c\)は全て50Ωです 。

  • Feko_20261020_07_01
    表1 S11の比較
  • Feko_20261020_08_01
    表2 S21の比較

 表1、2において、理論値と計算値は実用レベルで十分に一致していると言えます。

 これらのSパラメータは、入射波と散乱波(反射波および透過波)の関係を表す周波数領域の伝達特性であることを踏まえて、時間領域解析を実行します。

時間領域解析

 時間領域解析を実行するために時間領域の入力信号を設定します。ここでは、図5(a)に示すような台形波を設定します。台形波のパラメータは、信号間隔100ns、振幅1V、遅延50ns、幅30ns、立ち上がり10ns、立ち下がり10nsです。

 信号の時間波形を設定すると、その周波数スペクトルが図5(b)のように確認できます。この時間波形の場合、周波数スペクトルが300MHz以上ではレベルが-60dB以下であることがわかります。先に計算したSパラメータは560MHzまでの周波数帯域をカバーしています。つまり、信号の周波数スペクトルの有効帯域を十分上回る帯域まで周波数応答を計算しているため、逆フーリエ変換時の誤差は十分に小さいと言えますので、第2章で説明した方法により時間応答を算出することができます。

  • 図5a_時間波形
    (a) 時間波形
  • 図5b_周波数スペクトル
    (b) 周波数スペクトル

図5 時間領域の入力信号

 時間領域解析の結果を図6に示します。図6のa、b、cはそれぞれ終端抵抗が50、75、100Ωの場合です。図中、Port1は信号源で観測される波形を、Port2は終端抵抗で観測される波形を、それぞれ示します 。

  • 図6a_TD_R50
    (a) 終端抵抗=50Ω
  • 図6b_TD_R75
    (b) 終端抵抗=75Ω
  • 図6c_TD_R100
    (c) 終端抵抗=100Ω
    図6 マイクロストリップ線路の時間領域の出力信号

 図6(a)では、マイクロストリップ線路の特性インピーダンスと終端抵抗が整合しているため反射がほとんどなく、Port1の時間波形は振幅がほぼ0で平坦となっています。また、Port2の時間波形は設定した入力信号の時間波形とほぼ同形です。

 一方、図6(b)と(c)では、マイクロストリップ線路の特性インピーダンスと終端抵抗が整合していないため、Port1では反射波の波形が観測され、Port2では入力波形の振幅の低下が観測されます。

 前項で示した反射係数の式から算出した振幅の理論値と図6の計算値を表3、4に示します。

  • Feko_20261020_09_01
    表3 Port1の比較
  • Feko_20261020_10_01
    表4 Port2の比較

 表3、4において、理論値と計算値は概ね一致していると言えます。

 

まとめ

  Simcenter Fekoを使用した時間領域解析について、フーリエ変換と逆フーリエ変換を用いた基本原理とマイクロストリップ線路に適用した事例を説明しました。事例において、計算結果は回路理論から算出した理論値と良好に一致し、本手法の妥当性と有効性を確認できました。

 

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