「なぜ、着座姿勢を変えることで高齢者ドライバーの緊急ブレーキ操作能力が向上するのか?」を解明

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株式会社テラバイト

株式会社テラバイト

 高齢者の緊急ブレーキ操作能力を高める運転姿勢の生体力学的メカニズムが明らかに 

 要点

  • 実験参加者が自由に設定した運転姿勢と、人間工学的知見に基づく指示姿勢を比較 

  • 指示姿勢では最大ブレーキ踏力が有意に増加 

  • 股関節伸展トルク[用語1]・足関節底屈トルク[用語2]の増大が高いブレーキ踏力に寄与 
  • 大腿四頭筋[用語3]とハムストリングス[用語4]の同時収縮[用語5]がブレーキ踏力の向上に関与する可能性を提示 

概要

 本研究は、運転時の着座姿勢が緊急ブレーキ操作能力に与える影響を、筋骨格モデル解析によって明らかにすることを目的として実施した。高齢ドライバー7名を対象に、対象者自身が自由に設定した通常の運転に近い自由姿勢と、人間工学研究に基づき関節角度を規定した指示姿勢の2条件で緊急ブレーキ課題を実施した。取得した身体運動データとブレーキ踏力データを用いて筋骨格モデル解析を行い、関節トルク[用語6]の計算と筋活動量の推定を行った。解析の結果、指示姿勢では最大ブレーキ踏力が有意に向上し、その背景として股関節伸展トルクと足関節底屈トルクの増大が確認された。また、大腿四頭筋とハムストリングスの活動量も増加しており、これらの筋群の協調的な働きが高いブレーキ踏力の実現に寄与している可能性が示された。 

 

研究背景

 高齢ドライバーによる交通事故の増加が社会的課題となっている。その一因として、緊急時に十分なブレーキ踏力を発揮できないことや、反応時間が遅延することが指摘されている。 

 ブレーキ操作能力の向上には運転者の身体機能だけでなく、着座姿勢も重要な要因であると考えられている。先行研究では、人間工学的に適切な関節角度となるよう調整した指示姿勢において、アクセルからブレーキへの踏み替え時間が短縮し、最大ブレーキ踏力も向上することが報告されている。しかし、なぜ指示姿勢で高いブレーキ踏力が得られるのか、その力学的なメカニズムは明らかになっていなかった。 

 そこで本研究では、筋骨格モデル解析を用いて緊急ブレーキ動作時の身体内部で生じている力学的現象を分析し、そのメカニズムを解明することを目的とした 。

 

研究成果

 緊急ブレーキ操作をどのように解析したのか? 

 本研究では、実験参加者に、前方に設置したランプの点灯に合わせてアクセルペダルからブレーキペダルへ素早く踏み替え、その後可能な限り強くブレーキを踏み込む課題を実施してもらった。計測した動作データとブレーキ踏力データを用いて筋骨格モデル解析を行い、緊急ブレーキ時の股・膝・足関節トルクならびに下肢の筋活動量を推定した。 

 

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    図1. 緊急ブレーキ操作の計測に基づく筋骨格モデル解析のイメージ

 

なぜ指示姿勢では高いブレーキ踏力を発揮できるのか? 

 解析の結果、指示姿勢では最大ブレーキ踏力が自由姿勢よりも有意に高い値を示した。また、最大ブレーキ踏力の増加量と連動している因子を解析したところ、最大ブレーキ踏力の増加量と、股関節伸展トルク、足関節底屈トルク、大腿四頭筋活動量、ハムストリングス活動量の増加量との間には強い正の相関が確認された 。

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    図2. 最大ブレーキ踏力の増加量とバイオメカニクス因子の増加量の相関関係


 歩行を対象とした先行研究において、大きな床反力を得るためには股関節伸展・膝関節伸展・足関節底屈トルクを強く作用させることが必要であることを報告されている。本研究で得られた、股・足関節の値が大きいものほどブレーキ踏力も大きい傾向にある、という結果はこの説明と一致する 。

 また、大腿四頭筋とハムストリングスの活動量が共に高まったことは料金が、両筋が同時収縮していることを意味している。この同時収縮は、以下のメカニズムによってブレーキ踏力の増加に寄与している可能性が考えられた 。

  1. 大腿四頭筋が活動した結果として膝関節伸展トルクが発生する。

  2. 1の状態に加えてハムストリングスが活動することで膝関節屈曲トルクが発生すると、大腿四頭筋による膝関節伸展トルクと、ハムストリングスによる膝関節屈曲トルクが同時に作用することとなり、結果として膝関節の正味のトルクは0に近づく。

  3. ハムストリングスは膝関節と股関節をまたがって走行する二関節筋であるため、活動することで膝関節屈曲トルクに加えて、股関節伸展トルクも発生する。2の結果として、ハムストリングスによる膝関節屈曲トルクはキャンセルされ、股関節伸展トルクのみが身体に発生する。

  4. 3の結果として生じた股関節伸展トルクがブレーキ踏力の増加に寄与する。 

 

社会的インパクトと今後の展開

 近年の自動車にはアンチロックブレーキシステム(ABS)やブレーキアシストシステム(BAS)が搭載されているものの、これらの機能を十分に働かせるためには一定以上のブレーキ踏力が必要であることが報告されている。本研究で示された指示姿勢は、特別な装置を必要とせずシート調整のみで実現可能である。そのため、本研究で得られた知見は、高齢ドライバーを含む多くの運転者の緊急時制動能力向上に貢献できる可能性があり、将来的には、安全な運転姿勢の定量的評価指標の構築や、高齢者向け運転支援技術への応用が期待される 。

 

論文情報

掲載誌:日本交通科学学会誌 Vol.25 No.2(2026) 
論文タイトル:着座姿勢が緊急ブレーキ操作に与える影響のバイオメカニクス的分析 
著者:徳永由太、牧田匡史、平尾章成、藤井宏明、田口大輔、國行浩史 

 

用語解説

[用語1] 股関節伸展トルク

股関節をまたいでいる筋肉によって生じる股関節を伸ばす(伸展)方向の回転作用。

[用語2] 足関節底屈トルク

足関節をまたいでいる筋肉によって生じる足関節を伸ばす(底屈)方向の回転作用。

[用語3] 大腿四頭筋

膝を伸ばすために必要な力・モーメントを供給する筋肉。大腿直筋・外側広筋・中間広筋・内側広筋によって構成される。

[用語4] ハムストリングス

膝を曲げるために必要な力・モーメントを供給する筋肉。大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋によって構成される。

[用語5] 同時収縮

関節に対して反対方向の作用を持つ筋群が同時に活動する現象。

[用語6] 関節トルク(関節モーメント)

 ある関節をまたいでいる筋肉によって生じる関節まわりの回転作用の総和。 

 

 

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